2008/6/14 土曜日

外交官志望からミュージシャンの道へ

Filed under: キャリア紹介 — lee @ 15:38:41

略歴

千葉県生まれ千葉育ち

地元の小中学校を卒業後、早稲田高校に進学。在学中にAIU保険会社主催の高校生国際交流プログラムに参加し、訪米。国会議員や現地ジャーナリストの会談など密度の濃い10日間のあと、さらに10日間、アメリカの高校生と共同生活を送り、世界の広さを痛感。以後、外交官、国際関係学の教授などを目指して筑波大学で国際関係学を専攻。在学中はカンボジア関係のNGO活動に明け暮れるも、同時にア・カペラを通して音楽活動に目覚め、「音楽を通した国際交流というものもある」、と人生の大きな舵取りをする。卒業後はプロのボーカルグループのオーディションに受かり、神戸を拠点に2年弱ほど活動。メジャーデビューを間近としながらも脱退を決意し、音楽教育を受けるべくアメリカのバークリー音楽院にジャズ作曲を学ぶ。在学中にアメリカにてジャズボーカルグループ「Syncopation」を結成。卒業後もアメリカに留まり、同グループにてメジャーデビューを果たす。

「順風満帆」に見えた学生時代

もう10年も前のことになる。地元の学校ではいつもトップクラスの成績。有数の進学校に進学し、現役で難関の国立大学に進学。そんな一見「順風満帆」に見えた私が卒業後、ミュージシャンという道を選んだときは、親族一同から大反対の嵐だった。結局自分の意志を押し通しはしたものの、失望した祖父などはその後数年、ろくに私とは口もきいてくれなかった。

そんな思いまでしてこの道を選んだのは、とてもシンプルな理由。「それが好きだから」。ただそのひと言に凝縮されているといってもいい。

進路変更の決め手になったこと

筑波大学在学中、私は3年次の半ばぐらいから、2年間海外に出る機会に恵まれた。はじめの1年はオーストラリアの大学に交換留学。次の1年はホームステイとボランティア活動をしながら北米とヨーロッパをミュージカルの公演をしてまわる、というプログラムで大学を休学した。

日本を離れる前、私は「日本に帰る頃には卒業を半年後に控えている。そのときまでに、国際関係の道に進むのか、音楽の道に進むのか、絶対に決めてから帰国しよう。」と心に決めた。留学中、毎日のように自分と向き合って考え続けた。

決め手になったのは、オーストラリア在学中に経験した思いだった。筑波大学で東南アジア学を専攻していた私は、オーストラリアでもアジア学系の授業を中心に選択していた。だが、同時に音楽学部の連中とア・カペラグループを結成して活動し、夜中までピアノを弾いたり楽譜を書いたり、といったこともしていた。

日本の大学よりはるかに厳しい授業で、慣れない英語と格闘しながら提出期限の迫った論文を夜中まで書いていた夜、私は「うーん、きっついなあ。別に単位がとれないほどひどい出来でもない。この辺でクオリティを妥協してもいいから、とりあえず終わらせて今日は寝よう。」と思って、床に就くようなことが多々あった。

そしてはじめての海外での学期が無事に終わった夏休み。時間のあった私は毎日のようにコーラス用の楽譜ばかり書く、という日々が続いた。若干20歳だった私は今に比べて相当体力があった、というのもあったとは思うが、そんなふうに楽譜を書いているとき、私は「この辺でクオリティは妥協して終わりにしよう」などという考えは、頭の隅にものぼらず、連日のように朝日が昇るまで、あるいは昇ってから日が相当高くなるまで、楽譜ばかり書いていた。

あるとき、そのふたつの感情の大きな違いに気がついたことが、音楽の道を選ぶ決め手となったのだった。

背中を押してくれた言葉、そして音楽の道へ

大学時代に、学生の兄貴分のような存在だった秋野豊氏(故人)が、生前よく「自分の能力は一番好きなことを通してはかるべし」と言っていた。この言葉が背中を後押ししたのだと思う。

「今の時点での自分の音楽における能力は、 国際関係学における能力とは比べモノにならないほど低いだろう。でも、どちらが心酔するほど好きかといわれれば、いまの自分は迷わず音楽と答えられる。将来、本当に「その道」を極めたいと思うのであれば、心から好きといえるもの、そしてクオリティに関して決して妥協出来ないものを選ぶべきだ。」

いま思うと感心するぐらいまっすぐなその思い。音楽で食べていくということがいかに大変なことなのか知らないナイーブさ。この二つがうまくミックスし、帰国後の私は就職活動をすることなく、卒論に勤しむ傍ら音楽の道に進む準備にとりかかった。

幸運なことにフルタイムで活動しているプロのア・カペラグループの新メンバー募集のオーディション情報を発見し、その翌日にオーディション、一週間後には合格の知らせと、卒業後の私はあれよあれよという間に「音楽でメシを食らう」ようになっていた。

その一方で、しっかりと学問として修めた国際関係学とは異なり、小中学校の一般の音楽教育以外は音楽の教育を受けたことのない私にとって、「仮にこのグループがなくなったら、自分は音楽の仕事を続けていけるだけの素養が備わっているのだろうか」ということが常に疑念としてついてまわっていた。実際、ひとつの楽譜を仕上げるのに、今からすると考えられないことだが、問題を解決する能力が不足していた私は、何ヶ月もかかってしまうようなこともざらにあったのである。

プログループ脱退後、アメリカの音大へ留学

グループの方向性が、自分の本来望む方向とズレがあったことも重なり、のちにグループ脱退を決意。奨学金を得て渡米して自分の尊敬する教授陣が揃っていたバークリー音楽院の門を叩いたのが、2001年1月。留学にあたって、私は大きく3つの目標を掲げた。

1.「息の長いミュージシャンとして活動できるようにするために、しっかりとした音楽教育を身につける」

2.「日本のコーラス界はなかなか世界レベルを狙える位置にない。せっかく本場のアメリカに行くわけだから、その地で世界に通用するようなコーラスグループを作って活動したい」

3.「アメリカで学んだことを、将来的に日本のコーラス界に還元していきたい」

7年経った今振り返ってみる。私は渡米当時の目標を少なからずクリアしていることを実感している。

ひとつめの目標に対しては、音楽の道を志したときは考えもしなかったけれど、今年はミュージシャンとして「メシを食らう」ようになって10年目を迎えることができたという事実が、答えらしきものになってきていると思う。

ふたつめの目標について。渡米1年後にアメリカでボーカルグループ「Syncopation」を結成し、メジャーデビュー作を含めた3枚のアルバムをリリース。今年に入って、アメリカ最大(世界最大)のア・カペラコンペティションで、ベストアレンジャー賞を受賞することができ、目に見える形でもようやく「認められた」ということを実感できるようになった。

もうひとつの目標については、渡米後、毎年数回日本に飛んで、各地でワークショップの講師として招聘していただき、ワークショップを通してアメリカで学んだこと、経験してきたことを日本のコーラス界、音楽界に伝える機会に数えきれないほど恵まれてきた。

目標の達成はひとつの通過点

どの道もそうだとは思うが、音楽の世界は奥が深い。渡米当時の目標をこうしてある程度まで達成したことは、いまとなってはひとつの通過点でしかないと思っている。何かひとつを達成したら、否が応でも次の目標が生まれてしまうからだ。

バークリー音楽院での素晴らしい教育のおかげで、渡米前の私には考えられなかったことだが、グラミー賞をとるような人々にアレンジを絶賛されたり、グラミー賞ノミネートアーティストたちと共演したりするようにまでなった。そしていまの私は、コーラスはもちろんのこと、ビッグバンドからオーケストラまで、そしてジャズからクラシックまでと、幅広い音楽を手がける機会に恵まれている。

そんな中、2008年夏には、「好きなこと」を職業に選ぶにあたって背中を押してくれた故秋野豊氏の、10周忌追悼コンサートが行われる。タジキスタンで国連の政務官として奔走する中、武装勢力の銃撃によって殉死した秋野氏。ひょんなきっかけで、フルオーケストラによるコンサートの全楽曲を手がけさせていただけることになったのだが、これは筑波大学時代から「音楽を通して伝えられたら」と思い続けて来た「国際関係学」への思いに挑むには、またとない機会だと思っている。

そんな思いの丈のこもった、「決して妥協出来ない」コンサートをひとつの節目に、自分の中で何かが大きく変わるような気がしている。クラシックとジャズ、ポップを融合した壮大な試みという、今回のプロジェクトのような「妥協出来ないこと」をひとつひとつ越えていくことは、前に出来なかったことが出来るようになる過程でもある。

そんなふうに「妥協出来ないことの連続」を経験できること。それを幸福なこと捉えるか不幸なこと捉えるかは、人それぞれだろう。私は間違いなくそれが幸福なことと100%言い切れるし、言い切れるからこそ、25歳まで音楽教育を受けたこともなかった私が、全米で(この分野では)一番大きな賞をもらえるぐらいまで成長することができたのだと思う。そして、そんなふうに妥協せず好きなことと向き合ってきたからこそ、「今日死んだとしても何の悔いもなし」と思えるような日々を送ることができているのだと、いつも思っている。

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